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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)5347号 判決 1969年9月08日

原告

西谷三千代こと

西谷ミチヨ

外四名

代理人

高橋靖夫

被告

大阪ダイハツ販売株式会社

外一名

代理人

板持吉雄

主文

一、被告らは各自

(一)  原告西谷ミチヨに対し金一、一三九、〇一七円および内金八五〇、〇〇〇円に対する被告大阪ダイハツ販売株式会社(以下被告会社という)については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林輝雄(以下被告小林という)については昭和四三年二月二日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を、

(二)  原告西谷芳秋に対し金五七六、二五〇円および内金一〇、〇〇〇円に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から、内金四九六、二五〇円に対するいづれも同四四年五月二七日から、内金七〇、〇〇〇円に対するいづれも同年九月九日から右各支払いずみまで年五分の割合による金員を、

(三)  原告西谷正純、同西谷光彰、同西谷真由美に対し、それぞれ各金九二、〇〇〇円宛、および内金八〇、〇〇〇円に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から、内金一二、〇〇〇円に対するいづれも同四四年九月九日から、右各支払いずみまで年五分の割合による金員を、

各支払え。

一、原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

一、この判決の第一項は仮に執行することができる。

一、但し被告らにおいて、各自、原告西谷ミチヨに対し金六五〇、〇〇〇円、原告西谷芳秋に対し金三五〇、〇〇〇円、原告西谷正純、同西谷光彰、同西谷真由美に対しそれぞれ金五〇、〇〇〇円宛の各担保を供するときは、右各自の仮執行を免れることができる。

第一 原告の申立

被告らは各自

一、原告ミチヨに対し金二、六六六、八二〇円四〇銭および内金二、〇〇〇、〇〇〇円(後記慰藉料損害金)に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から(いずれも訴状送達の日の翌日)、右支払ずみまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を、

二、原告芳秋に対し金一、二九九、六〇〇円および内金二〇〇、〇〇〇円(後記慰藉料損害金)に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から被告小林については同四三年二月二日から(前同)、内金一、〇九九、六〇〇円(前記慰藉料を除くその余の損害金)に対する同四四年五月二七日(昭和四四年四月三〇日付訴の変更申立書送達の翌日)から、右各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(前同)を、

三、原告正純、同光彰、同真由美に対し、それぞれ金九六、〇〇〇円宛及びこれらに対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については、同四三年二月二日から(前同)右各支払いずみまで年五分の割合による金員(前同)を

各支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二 争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四〇年一〇月一九日午前一一時二〇分ごろ

ところ 富田林市大字毛人谷五〇三番地先路上

事故車 軽四輪貨物自動車(六大ち五七一〇号)

運転者 被告小林

受傷者 原告ミチヨ

態様 原告ミチヨが運転し、原告芳秋の同乗する普通貨物自動車ライトバンが南進し、横断歩道手前で歩行者の横断待ち停車中、後続して来た事故車が追突した。

二、原告らの身分関係

原告芳秋、同ミチヨは夫婦であり、他の原告三名は同人らの子である。

三、責任原因

被告会社は事故車を所有し、これを従業員である被告小林に被告会社業務のため運転させ運行の用に供していた。

第三 争点

(原告らの主張)

一、事故の態様、被告小林の過失

事故車は時速約三〇キロメートルで進行して来て原告車両に追突した。本件事故発生は被告小林の前方不注視・脇見運転・徐行もしくは一時停止懈怠の事故車運転上の過失にもとづくものである。

二、傷害

原告ミチヨは頸部筋肉痛、脳圧亢進症候群(鞭打症)の、原告芳秋は前頭部打撲症の各傷害を負つた。

三、損害

(一)原告ミチヨ 計二、六六六、八二〇円四〇銭

(1)治療費 一三九、〇一七円

前記傷害のため大阪赤十字病院、同院相互会、北野病院、大阪医科大学病院、同院売店、ノイロ医科工業株式会社に支払つた医療関係費

(2)慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

(3)弁護士費用 五二七、八〇三円四〇銭

着手金 一〇〇、〇〇〇円

報酬(二割)四二七、八〇三円四〇銭

(二) 原告芳秋 計一、二九九、六〇〇円

(1)逸失利益 八〇、〇〇〇円

原告ミチヨを除くその余の原告らは、日常家事を原告ミチヨによつて賄はれていたところ、同原告の受傷により他の原告らが自ら家事労務を負担しなければならなくなつた。右家事労務を自ら負担することによる損失は一人当り一日一〇〇円の割合とみられるので、各自、昭和四〇年一〇月二日より同四二年一二月三一日まで八〇〇円分を請求する。よつて、原告芳秋損失分は八〇、〇〇〇円である。

(2)代替雇人賃料等 八〇三、〇〇〇円

原告芳秋は鋳物用金型製作業を営み、その業務用自動車の運転を原告ミチヨに委ねていたところ、同原告は前記受傷のため運転を行うことができなくなつたため、代替運転手として訴外川口英子を雇用することを余儀なくされた。右訴外人を雇用した昭和四二年一一月二一日から同四四年四月までの間に同人に支払つた金額は給料六九五、〇〇〇円(月額四〇、〇〇〇円)、食事代一〇八、〇〇〇円(一日分二五〇円の割)である。

(3)慰藉料 二〇〇、〇〇〇円

(4)弁護士費用 二一六、六〇〇円

右は二割相当の報酬額である。

(三) 原告正純、同光彰、同真由美ら

各計 九六、〇〇〇円

(1)逸失利益 各八〇、〇〇〇円

原告芳秋の逸失利益請求といづれも同一の理由により請求する。

(2)弁護士費用 各一六、〇〇〇円

いづれも前項(1)の二割相当の報酬額である。

<中略>

第五 争点に対する判断

一、本件事故の態様、被告小林の過失

被告小林は事故車を運転して時速約三〇キロメートルで進行し、本件事故発生地点の約一五―六メートル手前に差しかかつたとき、約2.6メートル前方の道路左側に停車していた普通乗用自動車が車首を斜め右に向け発進したのを認めたので、直ちに半ブレーキを踏みつつ、右転把してこれを避け、道路中央寄りに進出して走行したところ、前方から道路中央寄り対向車道上を対向して来るダンプカーを認めたので、更に左転把して、自車左側を走行して来ている前記普通乗用車との接触を避けるため、これに注意を奪われつつ走行を続けるうち、横断歩道手前で停車中の原告ら車両をその直前に至つて漸やく気付き、急遽急制動措置に及んだが間に合わず、これに追突して本件事故に至つた。従つて本件事故発生は、被告小林の前方不注視の事故車運転上の過失にもとづくものというべきである。

(証拠<略>)

被告らは、事故車の衝突時の衝撃は軽微なものであつた旨主張し、右主張にそう被告小林本人尋問の結果もあるが、右は前記諸証拠に照らしにわかに採り難く、むしろ前認定の事故の態様に鑑みれば、事故車の衝突時の衝撃は必ずしも軽微なものであつたとは認められないというべきである。

二、傷害

本件事故により、原告ミチヨ、同芳秋はそれぞれその主張の傷害を負つたと認められる。

(証拠<略>)

三、損害

(一) 原告ミチヨ

(1)治療費 一三九、〇一七円

原告ら主張のとおり認められる。

(証拠<略>)

(2)慰藉料 八五〇、〇〇〇円

原告ミチヨは前記傷害を受け、事故直後には異常を感じなかつたが、その翌朝ごろから頸椎損傷特有の症状が現われ始め、頭痛、頸部痛、むかつき、首のふらつき、首・肩のこりなどの諸症状を訴えて、それぞれ少くとも①松崎病院に昭和四〇年一〇月二〇日から同四一年三月二〇日の間、内実日数五日、②大阪赤十字病院(脳神経外科・精神々経科・整形外科・放射線科等)に、昭和四〇年一〇月二七日から同四三年八月一六日の間、内実日数四八日、③北野病院に昭和四二年七月二二日、同月二五日の二回、④大阪医科大学附属病院に昭和四三年二月五日から同年一二月二五日の間内実日数約五〇日を通院した(但し右実通院日数中には、投薬のみを受け、又診断書交付のみを受けたと認められる日数も含まれる)。原告ミチヨは、原告芳秋の営む鋳物用金型製作業の配達等を手伝い、殊に右営業用の自動車の運転は専ら同女において担当すると共に、かたわら原告ら一家の家事にも従事していたところ本件受傷による前記諸症状のため、長期にわたり、これを充分に行うことができなかつた。尤も昭和四三年八月ごろにおいては、頭がふらふらする症状を除いては、前記諸症状は消失もしくは軽快し、概ね健康人に近い状態に復して、或る程度の労働はむしろ、これを積極的に行うのが好ましいとされるまでに恢復した。

(証拠<略>)。その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると、原告ミチヨの慰藉料は右額が相当である。

なお、被告らは、原告ミチヨの傷害は極く軽微なもので、諸検査の結果も特記すべきものなく、通院加療も申し訳程度のものであつた旨主張し、右主張にそう。<証拠>もあるが、これらは前掲諸証拠に照らしにわかに採用し難く、右被告ら主張は認められない。(殊に乙一三号証の一―人事調査報告書については、証人木下陽の証言によれば、医学の専門的知識に乏しい同証人の日赤病院におけるカルテの披見は、せいぜい何秒か位の間に過ぎなかつたというような事実も認められ、これに右前掲諸証拠を併せ考えると、同調査報告書は、被告らに利益な事実のみを記載報告した疑いもあり、少くとも調査の正確性・信頼性には少なからぬ疑いが存し、到底措信できない。但し検乙号証に関する部分については後記認定のとおり。)

(3)弁護士費用 一五〇、〇〇〇円

(証拠。弁論の全趣旨)

(二) 原告芳秋

(1)逸失利益 八〇、〇〇〇円

原告ミチヨを除くその余の原告らは、原告ミチヨの受傷以来少くとも原告ら主張の期間、従来原告ミチヨによつて賄われていた原告ら一家の日常家事を各自分担負担しなければならなくなつた。この原告ミチヨの受傷により、他の家族が余分に労働力を消費しなければならなくなつた財産的損害は、少くとも原告ら主張の額を下らぬものと評価しうるので、右原告ら一人当りの損害は計金八〇、〇〇〇円となる。

(証拠<略>)

尤も、<証拠>に、前認定の原告ミチヨの通院期間中の実通院日数などを綜合すると、原告ミチヨは、気分のよい折には外廻りの掃除、犬の散歩など軽い程度の労働はなしえていたものと認められ、従つてそのようなときには、或る程度の家事労働にも従事したものと推認されるところ、その家事労働に従事しえた程度は、前認定の全期間を通じてこれをみれば、精々健康時の五分の一を超えぬ程度のものとみるのが相当である。ところで前認定のように家族が余分に家事労働に従事した場合のその財産的損害は、仮に家族が家事労働を分担しない場合には家政婦等を雇用してこれに委ねることとなる点に鑑み、家政婦平均賃金(当時において少くとも一日、一、〇〇〇円を超える)を基準として評価するのが相当であるが、これより、前記原告ミチヨの家事労働能力の残存の割合に応じてその損害を逓減したとしても、なお被告ら主張の損害額は充分これを認めることができるというべきである。

(2) 代替雇人賃料 四一六、二五〇円

原告ミチヨの前記受傷により原告ら家業の業務用自動車の運行に支障を生じたため、代替運転手として訴外川口英子を給料月四〇、〇〇〇円、昼食代一回当二五〇円で原告主張の時より雇用した。但し、前認定のとおり、原告ミチヨは昭和四三年八月ごろには症状頓に軽快し、略々健康人に近い状態に復していたというのであるから、本件事故と相当因果関係ある雇用の終期としては、右四三年八月までとみるのが相当であり、そうするとその間の賃料額(一ケ月二五日稼働するものとして計算した昼食代を含む)は、(46,250円×9ケ月)計四一六、二五〇円となる。

(証拠。<略>)尤も、右各諸証拠によると、原告ミチヨは、受傷後右川口雇用に至るまでの間、月三―四回の割で家業々務のため自動車運転に従事したことが認められるが、前認定の原告ミチヨの症状並びに前記諸証拠に照らすと、右運転は決してこれを充分なしうる体調のもとに行われたものではなく、雇用すべき代替運転手が却々得られぬまま、業務上の必要に迫られ、止むなく気分の特によい時にのみなされたものと認められるので、右原告ミチヨの運転行為があることを以て訴外川口の雇用を本件事故と因果関係のないものとは云えないというべきである。

(3) 慰藉料 一〇、〇〇〇円

前記傷害を負い、その後暫らくは疲れ易い感じがした(原告芳秋本人尋問の結果)。その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると原告芳秋の慰藉料は右額が相当である。

(4) 弁護士費用 七〇、〇〇〇円

(証拠。弁論の全趣旨)

但し遅延損害金は判決言渡の翌日から認める。

(三) 原告正純、同光彰、同真由美ら

(1) 逸失利益 各八〇、〇〇〇円

原告芳秋の逸失利益認定と同一の理由により右各原告らの家事労働負担による損害を認める。

(2) 弁護士費用

各一二、〇〇〇円

(証拠。弁論の全趣旨)

但し遅延損害金は判決言渡の翌日から認める。

四、示談の成立について。

昭和四二年一二月二六日夜、被告小林が原告ら方を訪れ、原告ミチヨに対し、刑事処分の関係で検察官から早く示談書を提出するよう云われたため、示談条項を被告会社でタイプして貰つて持参したので捺印して欲しいと求めたことから、原告ミチヨが右示談書に署名押印し、同女と被告小林間に、治療費、車両修理費は加害者において全額負担し、又車両修理期間中は加害者より代替車両を提供する旨の示談が成立した。しかしその際右損害を除く慰藉料その他の損害については、両者間に全く話題にのぼらず、何らの折衝されるところもなく終つたものであつて、以上の事実からみれば、当時両者の間に成立した示談は、治療費、修理費及び代替車提供に関する事項に止まり、右示談において原告ミチヨがその他の損害の請求権をすべて放棄した訳のものではなく、結局当時両者の間においては、前記示談の対象となつた損害を除くその余の損害については、何らの合意の成立もなかつたものとみるのが相当である。

(証拠<略>)

第六 結論

被告らは各自

一、原告ミチヨに対し、前記損害額計金一、一三九、〇一七円および内金八五〇、〇〇〇円(前記慰藉料損害金)に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から(いづれも訴状送達の日の翌日)右支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、

一、原告芳秋に対し前記損害額計金五七六、二五〇円、および内金一〇、〇〇〇円(前記慰藉料損害金)に対する被告会社については、昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から(前同)、内金四九六、二五〇円(前記逸失利益及び代替雇人賃料)に対するいづれも同四四年五月二七日(昭和四四年四月三〇日付訴の変更申立書送達の翌日)から、内金七〇、〇〇〇円に対するいづれも昭和四四年九月九日(判決言渡の翌日)から右各支払いずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を、

一、原告正純、同光彰、同真由美に対し、それぞれ前記損害額計金九二、〇〇〇円宛、及び内金八〇、〇〇〇円に対する被告会社については昭和四二年一〇月一二日から、被告小林については同四三年二月二日から(前同)、内金一二、〇〇〇円に対するいづれも昭和四四年九月九日から(前同)、右各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、

各支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。(西岡宜兄)

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